外科症例
○膝蓋骨内方脱臼とは
膝蓋骨は、大腿四頭筋、大腿滑車溝、膝蓋靭帯、脛骨粗面とともに膝関節を構成する、大腿四頭筋腱に付着した卵円形の小さい骨です。膝関節の屈伸運動に伴って大腿骨滑車溝上を移動し、関節の運動を滑らかにします。この膝蓋骨が大腿骨滑車溝から内側に脱臼することを膝蓋骨内方脱臼と呼び、正常な膝関節の動きが障害されます。
○症状
発症時期は個体により異なり、生誕時に脱臼している症例、成長の途中で脱臼が始まりそれが習慣化する症例、成長終了後に発症する症例、老齢になって発症する症例など様々です。
初期症状は、運動時にスキップする、後肢を蹴るなどの症状が時々出るがそれ以外は活発にしている、というようなものです。一時的な脱臼に伴う痛みで鳴き声をあげる、しゃがみ込むなどの他、自分で足を後方に伸ばし、一時的な脱臼を整復しようとする仕草が見られる時期もあります。脱臼した状態では、後肢は内側に捻れてうまく踏ん張ることができず、活発な運動ができなくなります。症状が慢性化すると足を持ち上げて全く使わなくなり、筋肉が萎縮します。 脱臼の方向や重症度は触診により診断できますが、X線検査により骨格の変形や前十字靭帯断裂などの併発疾患を確認し、後肢の歩行異常の原因となりうる股関節疾患、足根関節、神経疾患などの評価をします。
○治療
年齢、グレード、症状などに基づいて治療方針を決定します。若齢の動物や症状がある動物では外科手術が有効で、特に骨格成長期の患者では骨の成長とともに著しい骨格変形が起こるため、早期の外科手術が必要です。多くの動物で時間経過とともにグレードが進行し、その過程で軟骨の損傷、骨格の変形を起こします。また、膝蓋骨が脱臼し膝関節が内方にねじれた不安定な状態では、関節内の靭帯や半月板に無理なストレスがかかり、それらの損傷を併発します。これらの二次的損傷の多くは、膝蓋骨脱臼の整復手術をしても完全に修復することができないため、できるだけ早期の治療が理想的です。
外科手術の目的は、膝蓋骨を大腿骨滑車溝上に安定化させ膝の伸展に重要な四頭筋機構を調節することであり、当院では複数の術式を組み合わせた手術を行います。
◯症例動画
症例は14歳、パピヨン
飼い主様は、膝蓋骨内方脱臼という病気を知らず歩くのをあきらめていました。脱臼はグレード4で膝蓋骨は内側に外れたままで全く動きませんでした。病態を説明し、手術を行いました。高齢の為、関節炎も重度でしたが、手術によって歩けるようになりました。
術前と術後のX線写真と動画をアップロードしました。
○膝蓋骨外方脱臼
膝蓋骨内方脱臼に準ずる病態ですが、膝蓋骨は外方に脱臼します。その発生は比較的希です。内方脱臼に較べ、多くは痛みや違和感を強く認め、歩様は正常とはほど遠いものとなります。先天性に発症するものや、トイプードルに多く認める内側外側両方に脱臼するものなど病態も様々あります。手術が唯一の治療法となります。
◯症例動画
症例は6歳、ポメラニアン
飼い主様は、膝蓋骨外方脱臼という病気を知らず歩くのをあきらめていました。病態を説明し、手術を行いまた。手術により歩けるようになりました。術前と術後のX線写真と動画をアップロードしました。
『TPLO』は、犬の前十字靭帯断裂における最新の手術法の一つです。前十字靭帯には脛骨(下腿骨)の前方への転移と内旋を抑制する働きがあり、この手術法では膝関節の安定を得るために膝関節の力学的構造を変化させます。TPLOは脛骨近位関節面付近の骨切りを行なって脛骨に角度をつけることにより、前方への脛骨のすべり(犬の十字靭帯にかかるストレスの原因の一つ)を除去することができます。
つまりTPLO手術の意図は、脛骨の前方への推進を後十字靭帯で制御できる角度に高平部の角度を矯正し、膝関節の活動的制動を得ることです。他の前十字靭帯断裂の手術では十字靭帯の機能的な欠損に対してワイヤーや他の靭帯などで補おうと試みますが、TPLOでは膝関節の靭帯の機能的欠損に対して安定をもたらすことができます。 また、TPLOは前十字靭帯の完全または部分断裂の治療法として有効であり、活発に運動ができるようになるまでの期間を従来の手術法よりも短縮させ、関節内の退行性変化を最小限に抑えることが出来ます。
前十字靭帯が断裂すると右図のように脛骨(下腿骨)が前方へ変位して体重を支えることができません(この症例は10才のビーグルです)
そこで、模式図のように骨切りを行い脛骨の滑りを抑制し、膝関節を安定させます。
以前はナイロン糸を使い断裂した靭帯を補う手術をしておりましたが、TPLO術をするようになってからは、術後の運動機能の改善度は向上しました。
本院では現在、前十字靱帯断裂における標準的な治療として『TPLO』を実施しております。
上図の様に脛骨の関節面を骨切りして回転させ特殊なプレートで固定します。
これにより、大腿骨の遠位端はしっかりと下腿骨の上に乗り膝関節は安定します。
上の写真のように術後2~3か月で骨はしっかり癒合します。
この症例は1歳のコーギーで術前は患肢を完全に挙上していました。
術後はほどなくして跛行の消失を認め、今も機能障害は一切認なく元気に走りまわっています。
門脈シャント(門脈体循環シャント)とは、門脈と別の血管(後大静脈、奇静脈など)との間に異常血管(シャント血管)が形成される病気です。
門脈とは消化管と肝臓をつなぐ血管であり、消化管で吸収された栄養と毒素の処理は肝臓が担っています。
その門脈に肝臓を迂回し全身に直接流入するシャント血管が形成される結果、肝臓に栄養を送ったり肝臓で毒素を代謝する事ができなくなり、進行性の肝不全・毒素によりけいれん発作・成長不良などを起こし、致死的な病気です。症状は、同腹の個体よりも小さい体格や成長不良・削痩、食後の発作やふらつきなどが典型的な症状ですが、食欲不振や嘔吐、膀胱結石等も併発する事があります。症状が進行すると、肝不全に伴う低血糖発作・低蛋白による浮腫や胸腹水などが現れ、最終的には肝硬変により死に至ります。
内科治療
肝保護薬や肝性脳症を緩和する薬剤などの使用します。後天性の場合は内科が治療の主軸になります。
外科治療
先天性の場合は、外科が治療の主軸となります。 手術によりシャント血管を閉塞する事が目的であり、根本治療を目指します。 手術が適切に行われれば神経症状などの門脈シャントによる症状を減らす・なくす事が可能で、肝機能が改善され完治も十分期待できます。
症例報告
X線写真の症例は重篤な肝性脳症により痙攣発作を繰り返しておりました。アメロイド(シャント血管を徐々に閉鎖するシステム)による外科手術を行い根治しました。小さかった肝臓が、術後正常なサイズに成長した事が確認出来ます。
猫において腎結石および尿管結石は命に係わる腎不全を引き起こします。
腎臓で作られた尿は、尿管を経由して膀胱へ移動し体外へ排泄される訳ですが、近年はシュウ酸カルシウム結石による尿管閉塞性腎不全の報告が増加傾向にあります。
以前は摘出できない尿管結石は死に直結していましたが、このSUBシステムという新しい手術によって救えるケースが増えつつあります。
この手術は、閉塞した尿管を介さずに、腎臓と膀胱をシリコン製の人工チューブでバイパスさせる手術です。これにより、作られた尿は直接膀胱へ運ばれるため、腎機能は維持されます。
写真の症例は、10才の猫で2年前に手術をしました。この子は、術後一切の治療はせずとも腎機能は正常に保たれ、元気に過ごしております。
ただし、手術を施す時点で腎臓ダメージ(慢性腎不全)がある子も一定数存在し、術後定期的な皮下補液を要するケースもあります
その他、症例を順次公開しておりますので、下記よりご覧ください。